Sweet break Ⅲ
Sweet break①

先週まで満開だった桜も散り去った4月中旬。

入社して3年目の春。

同期入社のクール男子、関君とお付き合いを始めて、もうすぐ1か月が経つ。

お互い同じ総務課で、向かい合わせの席…とはいえ、その仕事の重責は明らかに違う。

彼は主に我が社の要である財務会計を担っていて、私は…というと、庶務的な業務をしながら、時々関君達の簡単なサポートなどをしている。

カタカタカタ…

目の前では、軽快なブラインドタッチで、音楽のようにパソコンのキーを叩き、業務をこなしていく関君の姿。

仕事中だけしている、枠なしのスタイリッシュな眼鏡は、時に少し冷たい印象を与えるけれど、滲み出る知性を一層引き立てるようで、妙な色気まで漂わせている。

…こんな”出来過ぎ君”が、自分の彼氏だなんて、未だ信じられない。

『倉沢』

不意に、名前を呼ばれ、ドキリとする。

『な、何?』
『気が散る…手、動かせ』

こちらには一切視線を寄越さずに、相変わらず、全くリズムが乱れることなくキーボードを叩き続けながら、抑揚のない声音で言い放つ。

『あ…ごめん…』

いけない…つい見惚れてしまい、自分の仕事の手が完全に止まっていた。

しかし、仮にもお付き合いしている彼女に向かって”気が散る”と言うのもどうかと思うが、年度切り替えのこの時期、関君のような優秀な人材は、実際多忙を極めていて仕方がないのかもしれない。
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