Sweet break Ⅲ

『先輩?』

すぐに拓海先輩のことだと気が付いた。

『あぁ、拓海先輩は1こしか違わないから、あの頃は車の免許なんて無かったし、だいたい中高校生は基本、移動は電車だよ』
『ふん…そうか』

信号が青に変わり、再び走り出す車の中で、関君が心無しか嬉しそうに見えるのは気のせいだろうか。

窓から見える街並みは、春の日差しをたっぷり浴びて、キラキラと輝いて見える。

関君セレクトなのか、車内には、男性アーティストによるアップテンポなナンバーが流れ、それを聞きながら、もう一度運転席の関君を眺めては、やっぱりにやけてしまう。

『フフフ』
『何だよ…ニヤニヤして気持ち悪い』
『だって…なんか、これってちょっと…』
『?』
『恋人っぽくない?』
『は?』
『…”運転する彼の助手席に座る”…なんて、なんだか”関君の彼女”になったみたいだし…』

心地良い緊張感を楽しみつつ、この”恋愛シチュエーション”を噛み締める。

関君はというと、今度は呆れたように溜息を吐くと、真っすぐ前を向いたまま、独り言のようにつぶやく。

『…みたいって、なんだよ』
『!』

少し怒ったようなその声音に、その言葉の意味を察して、思いのほか胸がきゅんとなる。

『倉沢…いい加減、自覚無いのも困るぞ』
『そう…だよね…ごめん』

本当に怒っているわけじゃないことは、何となく伝わってきた。

むしろ、言ってからすぐに意図的にこちらを見ようとしない関君は、少し照れているようにも見える。

職場を離れて、初めて関君と過ごすプライベートな休日。

やっぱり、今日は今までとは違うのかもしれない。

明らかに、同僚のそれではない関係に動き出しそうな予感がして、期待と不安に鼓動が大きく跳ね上がった。

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