Sweet break Ⅲ
『やっぱり、全部散っちゃってるかぁ…』
公園の駐車場から、目的の広場まで、歩きやすく作られた桜並木の遊歩道を、関君と並んで歩きながら、残念そうにつぶやく。
『今年は開花が早かったらしいからな』
『関君、今年お花見した?』
『いや、今年どころかここ数年無いな…そもそも時期が悪いだろ』
『あ~、確かに』
言われてみれば、毎年桜の咲く頃は、年度の切り替わりにあたり、仕事上、桜をゆっくり愛でる時間が無いのは、お互い最もな話だった。
公園内は、桜のピークは過ぎたとはいえ、寒くも暑くもないこの時期だけに、たくさんの家族連れや仲間同志で賑わい、少し先に見える広場では子供たちが元気に走り回っている姿が見えた。
『結構、人いるんだな』
同じように、遊歩道の先に見える広場を見ながら、関君の口からこぼれた独り言を聞き流しつつ、自分自身は…というと、実は別のことに意識が向かっていた。
それは、互いに想い合ってる恋人同士ならば、当然起こりうる現象の一つ。
”…手、繋がれないのかな?”
さりげなく関君の両手を見れば、左手は私の持ってきた手作りお弁当の入ったトートバックを持ち、右手は親指だけを軽くジーンズのポケットに引っ掛けているだけで、自由に解放されている。