Sweet break Ⅲ
Sweet break⑥
『…沢、倉沢』
遠くから聞こえていた、低く自分の名前を呼ぶ声が徐々に鮮明になって、曖昧な夢の中から現実に引き戻される感覚。
『そろそろ、起きろ』
『ほぇ…』
見上げると、隣に座っていたはずの関君が目の前に立ち、呆れた顔で私を見下ろしている。
『あれ?…なんで、関君…』
『寝ぼけてんなよ。いい加減、涼しくなってきたし、風邪ひくぞ』
確かに頬にあたる風はさっきよりも冷たく、日の傾きから、時計を見なくとも明らかに時間の経過を感じる。
私としたことが、あのまま大木にもたれ、関君が起きたことも気付かず、爆睡してしまったんだ。
よく見たら目の前の関君は長袖のボーダーTシャツで、上に着ていたグレーのカーディガンは、私の膝元にかけてある。
『あ、これ、ごめんね…ありがとう』
『別に俺は寒くない、それより、ホラ』
『え…』
不意に差し出されたのは、大きな右手。
『自分で立てるなら…』
『あっ!待って!借ります、貸してください!』
いきなり来た、関君の手に触れるチャンスに、寝ぼけた頭が一気に覚醒する。