Sweet break Ⅲ
『おんぶ嫌ッ…あるくの!』
”ななみ”と名乗った5歳(だった)の女の子は、私が持っていたハートの飴をあげると、案外早く泣き止み、代わりに、いかにもイマドキの幼稚園児らしく、我儘を言いだした。
『仕方ないね、少し時間かかるけど、ゆっくり歩いて行こう』
『管理棟には電話しといたから、大丈夫だろう』
ひとしきりシートをたたみ、片付けると、『じゃ、行こっか?』と、ななみちゃんの手を取り歩き出す。
『こっちも、つなぐの!』
すっかり安心しきったのか、ななみちゃんは、前を歩く関君に向けて、こちらも繋ぐようにと、私と繋いでいない方の手を差し伸べてる。
『パパもママもいつも両方の手つないで、ブ~ンって大きなジャンプとかしてくれるもん』
『俺はお前の”パパ”じゃない』
『関君、相手は子供だよ』
『ったく、わかってるよ…いいか、ブ~ンはしないからな』
『え~ケチ~』
『何でも思った通りになると思うなよ、チビッコ』
『チビッコじゃないよ、ななみだよ、おじちゃん』
『おじ…』
関君が、5歳児相手にタジタジになるのを見て、思わず吹き出すと、ジロリと睨まれる。
『ほらッ手、出せ』
関君は面倒そうに言うと、ななみちゃんの小さな手をギュッと繋いであげる。
『あっ』
『何だよ?』
『ううん…何でもない』
思わず一瞬、相手が幼稚園児だということも忘れて、やきもちを妬いてしまいそうになった。
だってその手は、さっき私が触れる予定だった手。
そういえば、ななみちゃんぐらい子供だった頃は、こんな風に、男の子とだって簡単に繋げていた。
いつからだろう?手を繋ぐだけなのに、理由が必要になったのは…。
ななみちゃんの小さな柔らかな手を握りながら、少しずつ暮れていく空を見上げた。