Sweet break Ⅲ
時刻はまもなく16時を過ぎる。
日が陰り、風が冷たくなってきたせいか、公園内の家族連れは、帰り支度を始めている姿が目立つ。
『ななみちゃん、寒くない?』
『うん、へーき』
黒いスパッツにピンクのチェニック、その上にクリーム色の長袖カーディガン。ショートボブの羨ましいくらい艶のある髪には、可愛らしい赤いリボンが付いていた。
私と関君の間で、すっかりご機嫌のななみちゃんは、両手を大きく振って歩いてる。
『おい、少しジッと歩けよ』
『ブ~ンしてくれたら、言うこときくよ』
『俺は絶対しないからな』
『男の子は女の子に優しくしないとダメよって、せんせい言ってたよ』
『何でも言うとこと利くのが、優しさじゃない』
『?おねえさん、おじちゃん、言ってることよくわかんないよ?』
『…おい、何笑ってる…っていうか、なんで倉沢だけ”お姉さん”なんだよ』
子供相手に真面目に受け答えをしている関君に、思わず肩が震えてしまう。
それでいて、さりげなく足元に注意しながら、ななみちゃんの歩調に合わせてゆっくり歩く関君は、やっぱり優しい。
遊具のある広場を抜け、夏は水遊びのできる小さな川沿いの通路にでると、管理棟まではもうすぐだ。
『ねえねえ、ふたりは、ふうふなの?』
唐突に、ななみちゃんが質問してきた。
『えっ…あ、違うよ、夫婦じゃないよ』
『じゃ、”こいびと”でしょう?』
『…まあ、そう…そうかな?』
発せられた、子供の素朴な疑問に、今度は私の方がオロオロしてしまう。
関君は…と、様子を見れば、これという動揺も見せず、淡々と前をむいたまま答える。
『それがどうした』
『あのね、ななみも”カレシ”いるよ、おんなじパンダ組のゆうと君って言うの、もうチューだってしたことあるんだから』
『それは良かったな』
今時の幼稚園児は、マセてるとは知っていたけれど、ここまでとは驚いた。