Sweet break Ⅲ

開け放たれたドアから、一瞬、外の冷たい空気が流れ込みヒンヤリとする。

暦の上ではもう春でも、やっぱり夜は少し冷える。

関君が社屋に入るのを見送ると、エンジンの切れた静かな車内で、助手席のシートにそっと身体を預けた。

一人になって、急に力が抜け、改めて今日一日、自分がいかに気が張っていたのかを実感する。

…そういえば、拓海先輩とつきあっていた時も、二人で会う度に、ガチガチに緊張していたっけ。

もっとも、あの頃は、先輩の好きなタイプの女の子になりたくて、髪をショートにしたり服を変えたり、いつものおしゃべりも封印して、清楚で大人しい女の子を演じてた。

今考えれば、当時は先輩に本当の自分を知られたら…という、別の緊張感があったのかもしれない。

さすがに大人になった今は、偽った自分を好きになってもらっても、意味がないことはわかっているし、そもそも毎日顔を合わせる同僚の関君の前で、うまく演じ切る自信もない。

ありのままの自分でいるはずなのに、やっぱり消えないこの緊張感は、先輩の時のそれとは少し違うような気もする。

…この先、もっと二人で一緒にいたら、慣れていくのかな?

関君の車の助手席で、関君の彼女として、関君を待っている自分。

シートにもたれ、薄暗い車の中から目の前の建物を眺め、毎日通っているはずの自社ビルが、初めて来た場所のように感じて、なんともいえない不思議な感覚に陥った。

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