Sweet break Ⅲ
『そうだったんだ…あ、だったんですね?』
『何、急に敬語になってんだよ』
『だって知らなかったとはいえ、年上だし』
『別に隠していたわけじゃない、同期の男はみんな知ってるし…それも、今更だろ』
『そう…ですけど…』
愛美さんのアプローチの話も、その辺の誤解が招いているのかもしれないと思うのは、楽観的すぎるのだろうか?
『だから敬語はよせって…第一、俺は自分の女に敬語で話させる趣味はないからな』
『え?』
ドキッ…
今、関君、”自分の女”って言った?
『何だ?』
『あ…何でもないよ』
『?』
こんなさりげない一言だけで、舞い上がる私は、やっぱり恋愛初心者なのだろう。
私の不可解な言動にも慣れたのか、関君は、それ以上追及はしてこない。
車はゆっくり構内を出て、すっかり日の暮れた街中を走りだす。
『ところで倉沢、特に食べ物で、好き嫌いはないよな?』
『うん、別に無いけど…何で?』
『昼はご馳走になったし、夜くらい奢らせてくれ』
『え、いいよ、お弁当は私が勝手に作ってきただけだし…』
『今日だけだ、ちょっと行きたい店あるし、ここは黙って奢られろ』
『…じゃ、お言葉に甘えて、ご馳走になります』
すっかり夜の帳が降りた都会の街は、昼間の景色から一転する。
辺りが暗くなった分、街中のネオンが煌びやかで、ほんの30分ほど前に見た景色ともまた違った風景を楽しませてくれる。
車は、いくつかの通りを曲がり、国道一号線に出ると、横浜方面に向かっているようだった。