Sweet break Ⅲ
さらに動揺して視線を泳がせると、有ろうことかフッと小さく噴き出す関君。
『な、何よ?』
『いや、俺も中坊ん時の元カレに嫉妬するようになったら、終わりだなって思っただけだ』
声を抑えながら肩を震わす関君に、何となくバカにされたようで、若干イラっとする。
にやにや笑う関君に、尚のことムッとして『私、仕事戻るし』と言うと、カップを水切り籠に入れ、給湯室を出ようとする。
『倉沢』
出口辺りで、もう一度呼び止められ振り返ると、サーバーの横の壁にもたれ、珈琲片手に腕を組む関君が、こちらを見てる。
『週末、時間あるか?』
『…週末?』
『やっと仕事落ち着いてきたし…たまにはどこか出かけるか』
見たこともない柔らかな眼差しで言われ、さっきまでの苛立ちが一瞬で消え去り、代わりに一気に高鳴る胸の鼓動。
『それって…デ』
『デート?』と口に出そうとしたその言葉は、ふいに入ってきた同僚の言葉に遮られた。
『関さん、3番に電話入ってます』
『ああ、今行く』
関君は既にいつものクール顔に戻っていて、足早に給湯室を出ていく。
それでも、すれ違いざまに、私だけに聞こえるような声音で囁かれた。
『行きたいとこ、考えとけよ』
我ながら惚れた弱みなのか、さっきの苛立ちはどこへやら、もう気持ちは完全に週末に走り出してしまう。