Sweet break Ⅲ
『でも冗談抜きで、関君のこと見直しちゃったな…あの愛美嬢より朱音を選ぶなんて…』
『ん?なんで、受付の愛美さん?』
『やだ朱音、知らなかったの?関君、入社当初から愛美さんに凄いアプローチ受けてたんだよ』
『…そう…なんだ』
全く知らなかった…というより、自分がそういった色恋沙汰に疎いのは今に始まったことじゃないけれど、この話は紗季の話じゃ、結構有名な話らしい。
なんせ我が社の顔でもある受付には、選りすぐられた見目麗しい女性ばかりがそろっているけれど、その中でも際立っているのが、今名前の出た”愛美さん”こと、”城ケ崎愛美”なのだから、噂にならない方が不思議かもしれない。
『あの愛美さんを振った男…って、うちの課(営業)じゃ、関君ゲイ説流れてるくらいよ』
紗季は、”最もそれも単なるモテない男どものやっかみだろうけどね”と、つまみのナッツを口に運びながら笑う。
社内一の美女と名高い愛美さんと、若手イケメンホープの関君。
二人の姿を想像すると、オシャレ雑誌の表紙まで飾れそうな雰囲気で、どう考えてもその組み合わせの方が、見た目には明らかにシックリくる。
そうなると、つい素朴な疑問が頭をよぎり、思うと同時に、独り言のように呟いてしまう。
『…それなら、なんで、愛美さんじゃなく私なんだろう…』
『ちょっと!それって二人に失礼じゃない?第一朱音だって、関君がイケメンだから好きになったわけじゃないでしょう?』
『それはそうだけど…』
『関君にとっては、それこそナイスバディな美しい花より、身近で雑草のようなあんたの方が良かったってことじゃない、ね!』
若干、紗季の正直すぎる言い回しには問題はあるが、言っていることは当たっているだけに頷くしかない。
実は、先月のホワイトデーに、半信半疑だった関君の気持ちはきちんと確認したはずなのだけれど、未だ二人の間でそれ(恋人)らしい雰囲気もないだけに、現時点で自分が関君の恋人である自覚はゼロに等しかった。