きみが青を手離すとき。
「んで、お前ん家どこ?」
学校帰り。俺は家とは反対方向を歩いていた。
一歩後ろには前田がいて、俺の制服を小さく握っている。
すれ違う同級生たちがクスクスと笑う姿にイライラしながらも、普段の前田なら絶対にこんな醜態(しゅうたい)は晒さないから、見えないというのは相当な恐怖なんだろう。
「むしろ、今どこら辺?」
「お前が二丁目って言ったんだろ」
「じゃあ、果物屋さんある?」
ちょうど目の前には下町っぽい果物屋が一軒。
「果物屋をどっち?」
その先には分かれ道。っていうか、意外と道が入り組んでいて、俺のほうが帰る時に迷いそう。
「あ、待って!ちょっと林檎買って帰りたい」
「は?」
また面倒なことを言い出しやがった。
しかも果物屋の最前列にはタイミングを計ったかのように林檎が並んでいて、本当は見えないふりをしてんじゃないかって疑うくらい。
「お金は渡すから」
前田は見えないくせにカバンを漁りはじめる。
それを待つ時間も面倒な俺は「立て替えとくから、何個?」と、ため息をついた。
前田の世話をしながら林檎を買うなんて、罰ゲームでも絶対やらないっていうのに。
「一個。なるべく青いやつを選んでね」
「青?赤いほうが甘いだろ」
「私は食べ頃の林檎より酸っぱいほうが好きなの」