HATE or LOVE

開けた主は、低い身長に腰まである髪を栗色に染め、くるくると緩いパーマをかけている女の子だった。

(コイツ…。)

ガチャン。

見張りが床へ伸びているの見たからか、持ち前の野生の勘を発揮したのか、アキはスマホを放り投げて俺を守るように前に立った。

アキの小さな顔にひとすじの滴が垂れる。

「…。」

ゆっくりと、重力にしたがって落ちて行く滴。

床へ落ちて行くのを見届けた俺は、ダンッと力強く響く音に反応し、視線を前の奴等に向けた。

「千草…っ!」

「へえ。」

(やっぱりそうか。)

先手必勝と思ったのか。真っ正面から突っ込んで来た女の足を狙って、アキは低い体制から足を引っ掻ける。「転けてくれるか。」なんて、淡い期待はよろけた女が持ちこたえた時点で飛んでいった。

パンッ。

「よしっ。」

ピリピリとした緊張感が漂うなか、俺は思いきり手を叩き笑う。

突然のKY行動に、理解の追い付いてないアキは目を丸くした。

そして、俺はその隙に「下がってろ。」とアキの肩を引く。

アキが後ろへ下がったことを確認し、臨戦態勢で待ち構える女の前へと歩いた。

「俺が筧千草(かけいちぐさ)だよ。小さな狂犬ちゃん。」

「…。」

名乗ると同時に少し屈んでやる。180近い俺の身長と、女の低い身長は凸凹で、かなりの位置まで下がっても全く目が合うことは無い。

数秒して、感情が読めない女は少し高い位置にある俺の目に視線を合わせた。

「………帰る。」

すると何を思ったのか、女はスタスタと出口を目指し始めた。後ろでアキが立てる殺気を振り返って笑顔でいなし、去っていく背中に告げる。

「またおいで。」

「…。」

「俺等二年は年寄り、女、子供には優しいからさ。」

「ウソつき…。」

「飼い主に宜しく。」

「バイバーイ。」と手を振れば、バンっと叩かれる背中。

「…。」

改めてアキへ振り返れば、恐ろしく眉間にシワを寄せたアキがこちらを睨んでいた。

「あ、あらら?アキちゃん…珍しくおこなの?ねえ、おこなの?」

「……二度と俺の前に立たないって約束しろ。じゃなきゃ次は俺がお前を…。」

「いやんアキちゃんこぉわぁいぃぃ。」

アキがジロリと睨み続ける。機嫌を伺うように愛想を振り撒けば、上がっていた眉毛が力なく八の字へと下がっていった。

「大丈夫だよアキ。あの女、飼い主の命令がなきゃ多分動けない。」

「…お前を叩き潰せって命令、出てたかもしれないだろ。」

「んー…それは無いなあ。」

「何で。」

「力の差くらい、アレも飼い主も多分分かってると思うぜ。」

「実力ナルシストめ…。」

「実際俺は無敵だからさあ。」

「…言ってろ。」

「いやん。」なんて適当に話してると、機嫌も大分落ち着いてきたようで、アキはふっと柔らかく微笑んだ。

それに安心した俺はアキの手を引き、扉へと向かう。

床に伸びた奴等のそばへ行き、一人ずつ怪我の調子を見て回った。



ーーー動けてはいるものの、皆そこそこ重症だった。



手加減してこれかあ…。なんて恐ろしい事も頭に過ったが、今は怪我した奴の治療が先と、アキや動ける奴等と共に病院へ向かった。





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