きみが白を手離すとき。
走馬灯のように思い出をめぐらせながら、俺の思考は現実へと戻った。目の前には21歳になった彼女の姿。
「ねえ、修二」
いつかはこんな日がくるとは思ってた。
でもまさか、短大を卒業してすぐに嫁にいくとは思ってなかった。
早すぎだろって今でも思ってるけど、やっぱりその顔は幸せそうだから、俺の出かかっている言葉を無条件に飲み込ませる。
「なんだよ」
乱暴に言い返した。
俺はずいぶんと彼女と目を合わせていない。
会話はするし、喧嘩もするのに、視線だけは反発し合うように逸らしてしまう。
「修二は最後まで、私をお姉ちゃんとは呼ばなかったね」
また右耳に髪の毛をかけながら、少し湿った声で言う。
「呼んでほしかったの?」
「まあ、一度ぐらいは、ね」
「本当に?」
なあ、本当にお姉ちゃんって呼んでほしかった?
俺はさ、出逢った頃から姉とは思えなかった。
普通に綺麗なお姉さんが遊びにきたみたいな感覚で。勉強を教えてもらえてラッキー。一緒に飯食えてラッキーみたいな、そんな感じだった。
きっと彼女も両親を安心させたくて。なんとか家族の形にさせたくて、けっこうムリをして俺の面倒を見ていた時もあったと思う。
修二は私の大切な弟だよって、いつも口ぐせみたいに言ってたけど、俺は大切な姉だなんて感じたことは一度もない。