きみが白を手離すとき。
でも、そんなことを奈都が受け入れるはずがない。
奈都は誰よりも優しくて、しっかり者で、家族を大切にする人だから、誰かを傷つける選択をしない人だということは、俺が一番よく知っている。
もしかしたら、俺たちは同じ気持ちで交わった瞬間があったかもしれない。
八年間の中で奈都も、俺に対して心臓が跳ねた瞬間が、あったかもしれない。
でも、それは俺の想像でしか分からない。
聞いたところで、どうせ上手くはぐらかすに決まってる。
奈都はそういう女だ。
「出戻ってくんなよ。お前の部屋はねーからな」
「あれ、この部屋使わないって言ったのに?」
「使うよ。今から荷物移動させっから、さっさと出てけ」
面倒くさがりの俺に世話を焼いてくれる人はもういない。でも、きっと寂しくはない。
〝今も好きだよ〟
八年間言えなかった言葉を言えたことで、拗らせていた想いが一気に消化されていく感覚がした。
「はいはい。明日は寝坊しないでよね!」
そう言って、小さなショルダーバッグだけを奈都は肩にかける。