きみが白を手離すとき。
「なあ」
「うん?」
俺は部屋を出ていく奈都を呼び止めた。その首を傾げて振り向く顔も昔から変わらない。
俺が小四で出逢った綺麗なお姉さんは、あの頃より、ずっとずっと、いい女になった。
いつの間にか俺も18歳になって、奈都が俺を選ばなかったこと。そして、あの人を選んだこと。
ガキじゃなくなった今の俺は、ちゃんとその気持ちを受け入れられるぐらい、大人になった。
「幸せになれよ。姉ちゃん」
明日の午前10時には、純白のウェディングドレスを着た姉が目の前にいる。
それはきっと、世界で一番綺麗だと思う。
「ありがとう、修二」
瞳に涙を浮かべて、姉ちゃんは笑う。
近くて、遠かった、俺の姉になった人。
きっと世話焼きの姉ちゃんは、これからもたびたび家に帰ってきては、母さんと料理を作ったり、父さんの肩を揉んだり、俺の部屋も勝手に掃除したりすると思う。
それで、旦那の愚痴をこぼしながらも、お腹に宿る新しい命を穏やかに愛しく撫でる。
そんな未来の姿を見届けていくことが、
この人を本気で好きになった、
この人の幸せを誰よりも願う弟としての、
俺の役目だって、今は強くそう思う。
【きみが白を手離すとき。 END】