シェヘラザード、静かにお休み
倫理か、とオリバーはその言葉を舌の上で転がした。
「僕はとても貧しい家に生まれた。親は幼い頃に死に、唯一肉親だった兄が僕を育ててくれた」
「どうぞ続けて」
「その兄は、盗賊となった。経緯はよく知らない。悪い友人に誘われたのか、本当に金に困ってやっていたのか。しかし、兄は貴族の家を襲って金目のものを盗んできた」
シーラの顔が強張った。
オリバーは机の上の拳銃を見ていたので、気付かなかったが。
「盗賊はすぐに潰され、兄は殺された。誰に殺されたのかも、僕は知らない。兄がどんな貴族を襲っていたのか知らないように、どんな人間に恨みを買っていたのかも知らなかった」