ドクター時任は恋愛中毒
一旦千緒をベビーベッドに寝かせて、キッチンへ向かう。千緒がまた泣き出してしまうから胸がちくちく痛むけど、ミルクの準備の間だけは仕方ない。
キッチンに立ち、足元の棚からミルクの缶を取り出すと、隣にいた時任先生がぽつりとこんなことを言う。
「ミルク作るのと、千緒抱いてるの、どちらなら俺に任せられる」
「え……?」
「泣き声聞いてると、なんとなく焦るだろ。特に女性は、脳がそういう仕組みになってるから」
うそ……。あの時任先生が、母性を理解してる? 相変わらず無表情ではあるけど……脳に関することだから?
「ま、初対面の男に抱かれたら余計に泣きそうだから、ミルクの方がいいんじゃないかと俺は思うが」
時任先生は少し考えてから、少し気まずそうに言った。
そっか……千緒もびっくりするよね。いきなり初対面の、かつ怖い顔した男の人に抱き上げられたら。ミルク、お願いしちゃっていいのかな。
「え、と……そしたらまず、作り方は」
「量だけ教えてもらえれいい。やり方は学生時代に教わったことがあるから覚えている」
「そ、そうですか……じゃあ」
私は千緒が普段飲んでいるミルクの量を教え、すぐにベビーベッドへと向かって千緒を再び抱き上げた。
涙目ながら、抱っこすれば大人しくなってくれる千緒が可愛い。