ドクター時任は恋愛中毒
もしも恋人がいるという返事が返ってきたたら、この胸のかすかなときめきは、静かにおさめよう。
時任先生のことは、ちょっと変わった、けれど素敵なお医者様だと憧れるだけにとどめておこう。そんな風に、自分の気持ちをセーブしながら答えを待つ。
「いない。そもそも俺は恋愛や結婚には興味がない」
あまり間を置かず、時任先生は、しれっとつまらなそうに言った。
私は彼に恋人がいないことにホッとするより、後半の発言にショックを受けてしまった。
興味がない……しかも、結婚だけでなく、恋愛そのものにまで?
黙りこくる私に気付いた時任先生が、箸を置いて勝手に説明を始めた。
「いいか水越。恋愛なんてのはただの幻覚、幻想にすぎない。恋愛にのぼせた奴らの脳内っては、麻薬を使った時と同じような化学物質が大量に分泌されていて、そのせいで幸福感や高揚感、興奮が得られるだけなんだ。俺は、それを愛だの恋だのというロマンチックなものに置き換えて考えることができない。もっと言えば性欲だって、脳が繁殖を促すホルモンを出しているだけで――」