ドクター時任は恋愛中毒
藍澤とは仕事を離れるとそんなくだらない会話ばかりだったが、俺と違ってよく笑い、そして誰かのことをよく笑わせている彼を、俺は内心尊敬していた。
あまり感情の起伏がない俺は、基本的に無表情。そして長身であることや目が一重であることなども手伝い、誰かを怖がらせたり怒らせたりすることはあるものの、笑わせたことなど一度もない。
それでも藍澤と過ごす時間は多少頬の筋肉が弛緩していたと思うのだが、そのうち彼は別の病院へと引き抜かれてしまった。
業務外のことを話す相手はとうとういなくなり、俺の表情はますますロボットに近づいていくのかもしれない……と、胸に一抹の不安を覚えていたころ。
俺は、水越真帆という九歳年下の女性と知り合うことになった。
彼女は栄養士として、四月から俺の職場の病院の栄養部に勤務することが決まっていて、三月末から研修に来ていた。
とはいっても脳外科医の俺とはあまり接点がなかったが、勉強のために何度かカンファレンスに参加している彼女の姿を見かけた。
見かけただけで何故印象に残ったのかというと、あろうことか彼女はいつも居眠りをしていたからだ。