ドクター時任は恋愛中毒
「これの礼を言いに来た。……料理の腕のこと、お前の方こそ謙遜していただろ」
時任先生が掲げたのは、彼が医局にいない隙にデスクにこっそり置かせてもらった手作りのお弁当。
包んでいたバンダナともに私の手に返され、中を確認すると綺麗に完食してあって、うれしくなった。
それにしても、わざわざお礼を言いに出向いてくれるなんて……意外と義理堅いんだな。
「いえ、私の方こそ、昨日は本当に助かりました。お礼がそんなものじゃ割に合わないですよね」
「そんなことはない。さすがは栄養士という内容で、充実した昼食が取れた。……あ、そういえばお前、今夜は大丈夫なのか? 千緒の世話」
「あ、はい! 今日は妹の仕事が休みなんです。私も、久しぶりに友達と会う約束をしていて」
「そうか。じゃあ、また何かあれば……」
そこまで言いかけた時任先生は、急に黙りこんだかと思うと、白衣のポケットからボールペンを引き抜いて、私のデスクに向かって身を屈める。
ふわん、と香ったシャンプーの香りは、やっぱり嗅ぎなれた我が家の香り。昨夜一緒にいたことを改めて実感し、高鳴る胸の鼓動がさらに激しくなる。