ドクター時任は恋愛中毒


「……安心してください。そんな連絡はしませんから」


ぼそぼそと低い声で告げ、私は彼の顔を見ないままレポートに視線を落とす。

時任先生はいつもの抑揚のない声で「そうか」とだけ言い残し、栄養部のオフィスを出ていった。

私はペンを握り直してレポートを再開しようとしたけれど、彼のせいで全く集中できなくなってしまった。


あーもう! なんなの時任先生! やっぱりわけのわからない人……。

けど……それでも……やっぱり、好きだ。

矛盾した気持ちが同居する私の胸は、せわしく早鐘を打ち続けていた。





四月に入り、はじめの数日は時任先生とほとんど接点がないままが過ぎていった。

たぶん、千緒のお世話は頼んだら助けてくれたんだろうけど、電話番号の件であんな風に突き放されたから、お願いする気も起きなかった。

それに、以前のようにひと晩彼と過ごしたら、余計に惹かれてしまうのがわかっていたから、それが怖いというのもあった。


「まったく、変な人に引っかかっちゃったよ……」


週の後半に入った、木曜日の夜。

いつものように出勤する早帆を見送ってからの、千緒と二人の時間に、何気なく彼女を抱っこしながら、ついつい愚痴ってしまった。

千緒はきょとんと目を丸くして、じっと私を見つめている。


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