ドクター時任は恋愛中毒
『はい』
幸い、すぐに電話に出てくれた彼。私は震える声で、今の状況を伝えようとする。
「時任先生? 水越です。あの、千緒が……千緒が、具合悪くて、どうしようって……」
『千緒が? 落ち着け水越。深呼吸をしてから、具体的な症状を教えてくれ』
言われた通り深呼吸をしてみて、はじめて気がついた。私は不安から、どうやら知らず知らずのうちに過呼吸気味だったらしい。
ほんの少し話しただけで、時任先生にはそれがわかってしまったんだ。やっぱりお医者さんってすごい……。
呼吸が落ち着くのと同時に冷静さも少し戻り、私はひとつひとつ千緒の症状を説明した。
『……小児科は専門ではないが、ロタウイルスによる胃腸炎、のように思える。……予防接種は受けてないか?』
「予防接種……? ごめんなさい、わからないです。母子手帳も、妹が持ち歩いていて」
『そうか。とにかく下痢と嘔吐で脱水症状が起きやすいから、嘔吐が落ち着いたら水分を与えてやれ。俺も今からそちらに向かう。しかるべき医療機関をすぐ受診できるように車で行くから、待っていろ。道路状況にもよるが、ニ十分ほどで着けると思う』
ニ十分……。それすら長く感じられるほど、私は不安だった。沈黙でそれを察したのか、時任先生が少しきつい口調で、私を叱った。
『しっかりしろ水越。今、千緒を守ってやれるのはお前しかいないんだから』