ドクター時任は恋愛中毒
「とにかく今は、千緒と早帆さんのことを第一に考えてやれ」
「はい。……そう、ですよね。私ってば、また自分のことばかり……ほんと、いやになります」
流れていく真っ暗な車窓をを横目に、水越が力なく呟く。
さっきからなんとか彼女を元気づけたいと思っているのに、あまり上手いことが言えず彼女を俯かせてばかりだ。
どうして俺はこう……気がきかないのだろう。しかし、嘘は苦手だし、正直に思っていることをぶつけ続けるしかない。
「……お前の年齢を考えたら、本来自分のことばかり考えていい歳だと思うし、その頃は俺だってそうだったと思う。だから、そこまで自己嫌悪に陥る必要はない。……むしろ、お前なりに一生懸命家族のピンチに立ち向かう姿に、俺は凛々しいものを感じる」
「時任先生……」
赤信号のためにそこでいったん止まり、何気なく水越の方を見る。
暗い車内で彼女の潤んだ瞳と目が合うと、鼓動が一度大きく波打った。
動揺しているのか? ……いったい、なぜ。
自問自答している間に信号は青に変わり、ぎこちなく前に向き直った俺の耳に、水越の震える声が聞こえた。
「こんな時に、不謹慎かもしれないけど……」