ドクター時任は恋愛中毒
水越がするりとシートベルトを外し、助手席のドアを開ける。
そうして出て行こうとした彼女の手首を、俺は無意識につかんでいた。
「え?……時任せんせ……」
驚いて振り向いた彼女の手をぐっと引いて車内に戻すと、俺は身を乗り出して強引にその唇をふさいだ。
驚きで目をしばたかせる彼女の睫毛が、頬をくすぐる。
その唇は予想よりもずっと柔らかくて、温かくて、ほんのり濡れていて……砂糖が塗りつけられているわけでもないのに、甘い、と感じた。
どうしてそんなことをしたのか――と問われたら、衝動が抑えられなかった、としか言えない。
去りぎわのお前に、どうしてもキスがしたくなった。……説明は、以上だ。
しばし甘い感触を堪能した後ゆっくり唇を離すと、放心状態の水越が、とろんとした上目遣いで見つめてくる。
しかし、こんなときどんな会話をしたらいいのか、俺にはわからない。しいて言うなら、“ごちそうさま”といったところだが、彼女には意味不明だろう。