ドクター時任は恋愛中毒
俺はとりあえず、平常の挨拶でごまかすことにする。
「……おやすみ」
「お……おやすみ……なさ、い」
真っ赤な顔で言い、すごすごと車を降りていった水越。その姿がマンション内に消えるのを確認してから、俺は車を発進させた。
そしてひとりきりになった瞬間、急激に押し寄せてくるのは、感じたことのない羞恥だった。
「俺は……一体、何を……?」
片手で口元を覆い、くぐもった声で呟く。顔面が爆発しそうに熱い。
自然と蘇るのは、彼女の香り、唇の甘い感触……そしてあの、切なく潤んだ瞳。
どうしてキスなんかしてしまったのだろう。どうして、あんなにも水越が欲しくなってしまったのだろう。
……わからん。どうしてもわからん。
答えの出ない問いを繰り返していた俺は、危うく自分の家まで通り過ぎそうになってしまい、慌ててブレーキを踏むのだった