ドクター時任は恋愛中毒
誰にともなく胸の内で問いかけたその時、病室のドアが開いた。現れたのは、妹の早帆だ。
「お姉ちゃんは、帰って休んで? せっかくの日曜なんだから」
「あれ? もう電話終わったの?」
妹は千緒の退院日が決まったため、携帯電話が使用できるスペースに移動し、職場に連絡していたのだ。しかし……。
「いいの。もう、クビになったから」
あっけらかんと言い放った早帆が、私の隣にあるパイプ椅子に座った。
「え? なんでよ、クビって……」
「もう来なくていいって。急に何日も休まれたりするから、子持ちはやっぱりめんどくさいみたい」
「そんな……」
早帆は平気な顔をしているけど、姉としては世知辛いと思わずにいられない。
子どもがいるからこそ働かなきゃいけないのに、その子どもが仕事の枷になるだなんて。世の中、うまくいかないものだな……。
「ところでさぁ、あのイケメン先生とはどうなの?」
千緒を見つめていたはずの妹が、にやりと妖しい笑みを浮かべながら私の方を向く。
まさか早帆が時任先生の話題を振ってくるとは思わず、どぎまぎしてしまった。
そういえば、二人は一度顔を合わせているんだよね……私が久々にぐっすり熟睡してたあのときに。