ドクター時任は恋愛中毒


誰にともなく胸の内で問いかけたその時、病室のドアが開いた。現れたのは、妹の早帆だ。


「お姉ちゃんは、帰って休んで? せっかくの日曜なんだから」

「あれ? もう電話終わったの?」


妹は千緒の退院日が決まったため、携帯電話が使用できるスペースに移動し、職場に連絡していたのだ。しかし……。


「いいの。もう、クビになったから」


あっけらかんと言い放った早帆が、私の隣にあるパイプ椅子に座った。


「え? なんでよ、クビって……」

「もう来なくていいって。急に何日も休まれたりするから、子持ちはやっぱりめんどくさいみたい」

「そんな……」


早帆は平気な顔をしているけど、姉としては世知辛いと思わずにいられない。

子どもがいるからこそ働かなきゃいけないのに、その子どもが仕事の枷になるだなんて。世の中、うまくいかないものだな……。


「ところでさぁ、あのイケメン先生とはどうなの?」


千緒を見つめていたはずの妹が、にやりと妖しい笑みを浮かべながら私の方を向く。

まさか早帆が時任先生の話題を振ってくるとは思わず、どぎまぎしてしまった。

そういえば、二人は一度顔を合わせているんだよね……私が久々にぐっすり熟睡してたあのときに。

< 49 / 110 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop