ドクター時任は恋愛中毒
「いかん。不埒な妄想に取りつかれる……」
突然頭を抱えてうずくまる俺の肩を、同僚の一人がポンと叩いた。
「時任先生、それが男として正常ですよ」
「そうそう。心の赴くまま妄想というか、デート当日に向けてシミュレーションすればいいんです」
「デートの報告、楽しみにしてますね」
「……う、うむ」
三人からのありがたいようなそうでもないようなエールを受け取り、俺は曖昧に頷いた。
*
その夜、自宅マンションにて寛いでいながらも、俺は水越のことばかり考えて、悩ましいため息を吐き出していた。
いっそ、本人がそばにいれば……ひとりきりだから、こう、余計なことを考えてしまうのだ。会いたい、とか。触れたい、とか。
「……せめて、声だけでも」
ソファに背を預けながら、スマホを操作して水越の連絡先を画面に映す。そのまま無意識に電話をかけそうになったが、ぶんぶん首を振って思いとどまった。
声が聴きたいなどというくだらない用事で、水越の貴重な時間を奪うわけにはいかない。
そもそも、俺はこういう……脳が恋愛に侵されて、世界のすべてが桃色のフィルターを通したように見える、浮かれた人間を忌み嫌っていたはずではないのか。
俺としたことが、なぜ……たった一人の女性に、こんなにも胸がかき乱される。