ドクター時任は恋愛中毒


「いかん。不埒な妄想に取りつかれる……」


突然頭を抱えてうずくまる俺の肩を、同僚の一人がポンと叩いた。


「時任先生、それが男として正常ですよ」

「そうそう。心の赴くまま妄想というか、デート当日に向けてシミュレーションすればいいんです」

「デートの報告、楽しみにしてますね」

「……う、うむ」


三人からのありがたいようなそうでもないようなエールを受け取り、俺は曖昧に頷いた。





その夜、自宅マンションにて寛いでいながらも、俺は水越のことばかり考えて、悩ましいため息を吐き出していた。

いっそ、本人がそばにいれば……ひとりきりだから、こう、余計なことを考えてしまうのだ。会いたい、とか。触れたい、とか。


「……せめて、声だけでも」


ソファに背を預けながら、スマホを操作して水越の連絡先を画面に映す。そのまま無意識に電話をかけそうになったが、ぶんぶん首を振って思いとどまった。

声が聴きたいなどというくだらない用事で、水越の貴重な時間を奪うわけにはいかない。

そもそも、俺はこういう……脳が恋愛に侵されて、世界のすべてが桃色のフィルターを通したように見える、浮かれた人間を忌み嫌っていたはずではないのか。

俺としたことが、なぜ……たった一人の女性に、こんなにも胸がかき乱される。


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