ドクター時任は恋愛中毒


コクコク頷いた彼女に、「よし」と短く告げ、俺は席を立つと彼女の椅子の後ろに回り込んだ。怯えたように肩をすくめる水越だが、そんな風に力を入れたら逆効果になる。

俺は彼女の肩にそっと手を置き、ゆっくりマッサージを始めた。


「あ、あの……?」

「肩から首筋に掛けて、よくほぐして温めてやる。首の後ろには大事な神経が集中してるから、力を入れ過ぎないようにな。……しかしお前、だいぶ凝ってるな」

「先生、これは一体……」

「あと睡眠時間は、90分サイクルを意識しろ。スッキリ目覚められる」

「はぁ……」


たまには人に親切にするのもいいものだ。水越の肩を揉みながら、自己満足に浸る。

およそ十分弱のマッサージを終えた俺は、さぞ感謝されるだろうと期待しながら、水越の言葉を待っていたのだが。


「……なんなんですか」


椅子に座ったまま、俯きがちに水越が発した声には、なぜか刺々しいものがあった。その理由がわからない俺は、彼女の頬がほんのり赤く染まっていることに気が付いて言う。


「いい感じに体が温まったみたいだな。これで、今夜はぐっすり――」

「眠れるわけないじゃないですかっ! い、嫌がらせですか!?」

「なぜそんなに興奮している。……リラックスさせるためにマッサージしたのに」


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