ドクター時任は恋愛中毒
「……で、この番組がどうした」
『左側の、日本人の方! その人、千緒のパパなんです!』
「……なに? 千緒の父親……?」
あの、自分勝手に逃げたとかいう……?
思わず画面を凝視する。さっぱりした塩顔の若い男は、確かに千緒に似ているような気も……。しかし、まさか芸人だったとは。
彼の切れ味のよい突っ込みは相方以上に会場を沸かせていて、いったいどれほど面白いネタなのだ……と思っていたそのとき。テレビのスピーカーから流れてきたセリフが、俺の心をわしづかみにした。
「お前、それはサイボーグちゃうねん。ロボットや!」
な、なんだと……! 話の前後関係がわからんが、俺の気持ちを代弁してくれる者がついに現れた。これは、傑作のネタかもしれん。
俺は水越と電話中だということを一瞬忘れ、全神経をネタに集中させようとしてしまうが、ちょうど耳元で彼女の声がして、我に返った。
『私も今日初めて妹から本当のことを聞かされたんです。彼、赤ちゃんのお世話が嫌になったわけじゃなくて、この漫才コンテストに全てをかけるために家を出たそうなんです。優勝したら、賞金はもらえるし、仕事の数も桁違いに増える。妹をやっと楽にさせてあげられるって』