ドクター時任は恋愛中毒
ちょっとした寂しさを感じつつ、ふうとため息をつく。ヒマだし、飲み物でも買ってこようかな……。美琴と藍澤先生の分も。
そう思い立って、ベンチから立ち上がったそのとき、ふと誰かに声を掛けられた。
「あのう……」
少し高めでハスキーな、男性の声。振り向けば、そこには私と同世代か年下くらいに見える、若い男性が立っている。
明るい茶髪のパーマヘアに、くりっとした目元がトイプードルを思わせ、男性ながら可愛らしい雰囲気だ。……とはいえ、知り合いではないと思うのだけど。
「何か?」
「さっきまで、藍澤天河と一緒にいませんでした?」
「え、ええ。いましたけど」
……なんなんだろう、この人。藍澤先生の知り合い?
目を丸くして戸惑う私に構わず、彼はさらに質問してくる。
「例の婚約者さんですか?」
「え、いえいえ! 婚約者は私の友達です。今、二人であのアトラクションに」
というか、“例の婚約者”ってなに? まるで最初から美琴のことを知っていたみたい……。
怪訝に思いつつも頭上を走るジェットコースターのレールを指さして説明すると、彼はうなずいて納得したようだった。