ドクター時任は恋愛中毒


「ねえねえ。真帆ちゃんは、彼氏いるの?」


ゆっくりと円を描きながら上昇するゴンドラの中で、唐突に航河さんがそんな質問を投げかけてくる。私はびくっと過剰に怯え、警戒心をさらに高めた。


「い……いませんけど」


ちらっと彼を一瞥して答えたそばから、あからさまに食いついた反応が返ってくる。


「ほんと? じゃあ、立候補してもいいの?」


その無邪気な様子は、やっぱり尻尾をふりふり左右に揺らすトイプードルに見えて可愛いけど……若干のあざとさを感じてしまうのは、私がひねくれているのだろうか。


「いや、それは……困ります」

「なんで? 好きな人でもいるの?」


ここできっぱり答えておいた方が、逃げやすいだろう。私はそう思ってこくりと頷いた。だから、もうあんまり馴れ馴れしくしないでください。と、内心付け加えながら。


「ふうん。……でも、“好きな人”程度なら、超えられる自信あるよ、僕」

「え」

< 75 / 110 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop