ドクター時任は恋愛中毒
顔を上げた瞬間、彼が立ち上がって観覧車ががくんと揺れた。そのままこちらの座席に移動してきた彼は、あろうことかまったく距離を空けないで隣に座る。
ちょっと! これ、恋人でも勇気いる距離……!
不本意にもドキッと胸が鳴り、咄嗟に腰をずらそうとしたのに、彼の手がすかさず私の肩を抱いて、離れることを許してくれない。
それどころか顔まで近づけてきて、今にもキスできそうな距離で彼がささやく。
「僕……きみに一目惚れしちゃったんだ」
「だから……困ります……ってば」
「困ってる顔も可愛い。もっと困らせていい?」
航河さんが、瞳を潤ませて甘えるような顔をした。
いや、この人、やっぱ、あざといって。きっとこの演技で何人もの女の子を落としてきたんだろう。
犬みたいな顔して、悪魔の血族感ハンパない……!
「い、いいわけ、ないじゃないですか……っ」
なんとか顔だけをそらして、キスをされないよう必死の抵抗を試みていたそのとき。私のバッグの中で、スマホが電話の着信を知らせた。
ああ、誰だか知らないけど天の助け……! 私はすがるような思いで、航河さんに頼み込む。