ドクター時任は恋愛中毒
「どうも、藍澤航河です。っていうか、邪魔しないで欲しいんですけど。せっかく真帆ちゃんにキスしようとしてたのに」
『なんだと……?』
時任先生の声が急に尖ったものになり、航河さんはそんな彼の反応をおもしろがるようにくすくすと笑った。
「あ、そっか。今、聞かせてあげればいいんだ。僕たちの濃厚なキス、その音を――」
そんなおぞましいセリフの後、ちらりと流し目で私を見た航河さん。
ひいいい! この人、まさか本気……!? 背筋にぞくりと冷たいものが走り、狭いシートの上で後ずさりする。
しかしすぐに背中が壁についてしまい、こうなったらひっぱたいてでも拒否するしか――! と、右手に力を込めたその時。
『……彼女に手を出してみろ。この俺がただじゃおかない』
電話越しでも激しい怒りが伝わってくる、地鳴りのような声で時任先生が告げた。
時任先生が、こんなに感情を露わにするなんて……。驚きとともに、胸に熱い気持ちがこみ上げる。
しかし、航河さんのほうはつまらなそうにフンと鼻を鳴らし、逆に挑発する。
「……あれ? でもあなた、彼氏じゃないんですよね?」
『そんなことは関係ない。水越真帆は、俺が世界中の誰より大切に思っている女性だ。たとえ友人の弟であろうと、彼女を傷つける者は許さない』