ドクター時任は恋愛中毒
「いや……何事もなくてよかった。観覧車でなければ、すぐに助けに行きたかったのだが」
「時任先生……。でも、大丈夫です。もしも本当に危険な事されそうだったら、彼のこと殴っちゃおうと思ってたんで」
水越は言いながら手でグーを作って悪戯っぽく笑った。ああ……なんだこの可愛い生き物は。
俺は自然とその握り拳を取って、そっと唇をつけた。柔らかくきめ細やかな肌の感触が心地いい。
「……よせ。そんなことしたら、お前の手も痛くなる」
唇を離すと同時に言い、俺は彼女をまっすぐに見つめたが、水越は目を白黒させて戸惑っているようだった。
……俺の気持ちはさっき聞かせたはずなのに、なぜ。
「どうしちゃったんですか? 時任先生が時任先生じゃないみたい……」
「だから言ったろ。壊れたんだって、お前のせいで」
「私のせい……?」
「そうだ。この脳は寝ても覚めてもお前のことばかり考えているし、この胸の中ではハムスターがよく潰れたような声を出すし、この目でお前を見ると周囲がきらきらしているように見えるし、この耳はすぐお前の声を聞きたがるし、この唇は――」
「わわっ! もういいです! わかりましたっ!」