ドクター時任は恋愛中毒
思わず切ないため息をこぼした俺は、自分を戒めるように呟く。
「おさまるのだ、繁殖欲求……ホルモンの分泌を止めろ」
「はんしょく……?」
「いや、こちらの話だ。……しかし、もう一度だけ……」
地上に近づく前に、と、俺はもう一度彼女にキスをした。触れるだけのキスだが、これくらいにしておかないと本当に……。
名残惜しく思いながらも唇を離し、真帆の瞳をじっと見つめると、彼女がはにかんで言った。
「大好きです。……類、さん」
その瞬間、胸に飼っているハムスターが、銃で撃たれた。瀕死のハムスターを庇うように胸に手を置きながら、俺はやけくそで言い放つ。
「お前……このタイミングでそれは、卑怯だぞ。ああもう、なんで可愛いんだそんなに……」
堪えきれずに彼女を抱き寄せ、細い体にぎゅっと腕を回す。地上はだいぶ近づいていたが、もう、藍澤たちやほかの客に見られたって構わなかった。
水越真帆は、俺のものだ。世界中の人々にそう宣言して回りたい気分だった。