ドクター時任は恋愛中毒
「その場所は……ちょっと待て。り、理性を総動員せねば」
「……時と場所をわきまえるんじゃなかったんですか?」
「そう、なのだが……それは理想というか建前というかその」
「ごちゃごちゃ言ってないで、早く行きますよ!」
しびれを切らした真帆に手をぎゅっと握られ、鼓動がどくんと揺れた。
好きだ。可愛い。キスしたい。抱きたい。……いや、時と場所をわきまえろ。
頭の中はその繰り返しで忙しかったが、その後なんとか純粋に遊園地を楽しみ、俺たちは日が暮れるまでめいっぱい遊んだ。
しかし互いに明日は仕事のため、あまり遅くならないうちに車で彼女を家まで送り届けた。
いつかのように、彼女が車を降りる際にどうしても堪えきれずキスをしたが、あの時ほど戸惑いを感じることはなかった。
「また……出掛けよう。今度は、最初から二人でな」
それに、デートの約束だってもう、自分で取り付けられる。
「はい。楽しみにしてます」
「……そういえば、千緒は元気にしているか?」
「はい。退院してからは体調を崩すことなく元気です。でも、もうすぐ妹と一緒に出て行っちゃうんですよね」
残念そうに話す真帆の言葉で脳裏に浮かんだのは、テレビで見た一組のコンビ芸人の姿。
「ああ、父親が漫才コンテストで優勝したから、元の生活に戻るのか」
「そうなんです。よかったねって思いと、もう千緒のお世話できないんだなって寂しい気持ちと、半々で」