ドクター時任は恋愛中毒
◆ドクター時任は恋愛中毒
遊園地デートから数日後。
病院で普段通りに仕事をこなし、帰り支度をしていたときだった。
栄養部のドアがノックされ、対応した先輩の向こうに見えた顔に、私はぎょっとする。
「こんにちは。わー美人の栄養士さんたちがいっぱい。僕、この病院で働こっかな」
高めのハスキーボイス。人懐っこいわんこスマイル。そして心にもないお世辞を並べ立て女子を戸惑わせる、曲者……。
「あのう、どちらさ――」
「あっ、いたいた真帆ちゃん! これからちょっと時間ある?」
訝し気に声を掛けた先輩を無視して、まっすぐ私のもとへ駆け寄ってきたのは、スーツ姿の小悪魔、藍澤航河だ。何しにこんな場所まで……。
「航河さんのために割く時間はありません」
可愛らしさに油断して、彼のペースに乗せられたら危険。
あの遊園地で彼と過ごした短い時間の中でそう学んだ私は、にこりともせずきっぱり言った。
「まぁそう言わずに。もう、キミに変なことしたりしないよ。この間のことは俺も反省してるし、そのお詫びもかねて話がしたいんだ」
「でも……」
「ダメ、かな……?」
捨てられた子犬のような潤んだ瞳で見つめられ、困ってしまう。