漢江のほとりで待ってる
梅雨空の下、降り出した雨が由弦の肌に沁み込んでいく。
その感覚は、より一層胸を切なくさせた。
「あなたでは誰も幸せになんてできないんだから」
「一つ屋根の下に男と女がいたらすることは一つだ!」
雅羅と慶太の言葉が耳にまとわりつく。
何もかも知らないのは自分だけだった。
自分が訳の分からい問題に巻き込まれ、苦しんでいる間に、兄と珉珠は……
好きな人にまで裏切られた。
―――― 全てを失った。もう何もない。珉珠……あなたさえも失った。
思い出すのは、彼女の笑顔と自分の名前を呼ぶ優しい声。
そして幾度と重ねた唇。
その彼女が一晩慶太と一緒にいた、慶太に肩を抱かれた珉珠の姿が胸に落ちて来た。
悔しくて、哀しくて、どうにもならない。
胸が苦しい。目から涙が溢れ出して来た。
由弦はひたすら街を彷徨った。
二度と開かないように鎖で何重にもして絡めた、厚くて硬い鉄の扉。
それは由弦の心そのもの。
遠い幼い日々、胸の奥底に沈めた哀しみが浮き上がって来る。
静かにそれは怒りに変わり、由弦の中に眠っていた母の記憶と共に憎しみと化す。
誰かが鎖を解き、欲にまみれた汚れた手でこじ開けた。
その憎悪は静かにその時を待つ。