漢江のほとりで待ってる
由弦は無意識にはめていた、珉珠からもらった腕時計に目が留まり、思わず勢いに任せて外し、壁に投げつけた。
鈍い音がしたあと、そのままソファに倒れ込んだ。
そこへ、静かな空間にスマホが鳴った。
見ると、一条からだった。
彼もまた、由弦を心配していた。
「もしもし、大丈夫か?高柳」
「あぁ、何とか生きてるよ」
その元気のない声に、一条は状況を察した。
「そうか、まだ余裕がありそうだな」
逆の言葉で元気付けた。
「どうしてるかと思って電話してみたんだ。ちゃんと飯食ってるのか?気晴らしにでも、うちに顔出しに来いよ」
「大丈夫、ちゃんと食ってるし、気にしてくれてありがとう」
「ところで、何でお前反撃に出ないんだ?」と一条。
「もういいんだ。全て失くしたから」
「全て!?お前にとって最後の砦もか?」
「……!?あぁ」砦が珉珠と分かった。
「そうか。まぁいい機会だ、ゆっくり休んで、って、そうもいかないか。外野もうるさいから」
まだ由弦を追いかけるマスコミがいる。
「はぁ~、でも何で彼は「神は真実を知っている」なんて言ったんだろう。自分自身を裏切ることになるのに」
由弦が自分から話を切り出した。
「どういうことだ?」と一条。
「人の痛みも分かり、誰よりも強い精神であるようにと、彼の名前をご両親が付けたそうだ」
「まるでキリストだな」
「うん。伝説によると、クリストファーって名前、キリストを運んだ人の名前らしい」
「ふ~ん。そんな素晴らしい名前の人間が今回、神に背いたのか」
「人間、苦境に立たされた時、間違った道を選んでしまう。魔が差したんだろ」
「でも人を陥れてまで成功したいか?」