漢江のほとりで待ってる
次の日の夜、マーケティング部では、難しい顔でパソコンと睨めっこし、また出来上がった何枚もの絵コンテを何度も見比べたり、一人残業していた由弦。
その姿を珉珠は見つけ声を掛けた。
「お疲れ様です、専務。遅くまで頑張っていらっしゃるんですね?」
「あ! お疲れ様です! まだ正式な専務ではないですよ。あれ? こっちに用があったんですか? あ! そうだ、よかったらコーヒーでも一緒にいかがですか?」
二人休憩室へ。
コーヒーを珉珠に入れて渡した由弦。
「ありがとうございます。専務はカフェオレですか?」
「あはっ、恥ずかしながらコーヒーは飲めなくて、やっとカフェオレを飲めるようになりました」
珉珠はふっと笑った。
無表情な顔から、見せた彼女の笑顔に由弦は思わず「可愛い!」と胸が躍った。
「副社長は現場を見て回られる方なので、今日はこちらに」
「そうなんだ? ところで、青木さんは兄貴とつき合ってるの?」
「と、とんでもない!」
「兄貴のこと好き?」
唐突な由弦の質問に困惑する珉珠。
「好きと言うか、憧れ、尊敬かしら? でもなぜ?」
「何となく……兄貴には優しい表情を見せるような気がして」
店で慶太と珉珠が、仲良くしていた所を思い出しながら、由弦は聞いた。
「……!? 副社長にはほんとにお世話になって、この会社に入って間もなく、副社長の秘書をすることになったんです。右も左も分からない私に、副社長はずっとサポートしてくださって。ここまでやってこられたのも副社長のお陰。会社ではみんな副社長のこと誤解してるかもしれないけど、とても優しいお方ですよ?」
「物凄く信頼してるんですね? 何度副社長って連呼したと思います? 気持ちは伝えないの?」
「そ、そんなんじゃないですから!」
「そうなの? オレなら、好きだって気持ちが少しでも自分の中にあったら、伝えるな。後悔したくないから! 何なら振り向かせたい!って勢いで!……」
真顔で由弦は彼女を見つめた。少しの沈黙の後、
「珉珠さん、好きだ!」
突然の事に驚いた彼女。
「なんてな!? でも今言った言葉嘘じゃないから。なんなら~時折思い出して? オレのこと」
由弦は笑って言った。彼女も悪い気はしなかったものの、動揺を隠すのに努めた。