漢江のほとりで待ってる
慶太と珉珠が本社からB.A.Bに来ると、珉珠を見つけて由弦の方から手を振って来たり、「青木さ~ん!」と笑い掛けて来たり。
珉珠が通り過ぎれば、駆け寄って挨拶をして来たり、また一人で珉珠が休憩をしていると、必ず向かいに座って、由弦は笑顔を見せてくれた。
またある時は、珉珠に向かって、周りには分からないように、手を大きく振りながら「す・き・だ」と声に出さず、口の形だけで表現してみせたり。その度珉珠は、表情に戸惑った。
でも確実に、珉珠の中に由弦の表情一つ一つが刻まれて行ったのも事実だった。
ある時は、珉珠が中庭で一人軽食を取っていると、本社に訪れていた由弦が現れ、
「ご一緒していいですか?」と由弦。
「どうぞ」
珉珠の隣に座って、モリモリ食べながら、何だかんだ話す彼の姿を見て、「弟がいたらこんな感覚なのかしら?」珉珠はそう思いながら、心が和んだ。
「青木さんは休日何をされてるんですか?」
「休日?本を読んだり、絵を描いたりしてるかしら」
「絵を描くの?描いた絵見てみたいな~てか描いてるの見てみたい」
「そんな本格的なものじゃないですから。ほんの趣味程度ですよ」
「そうなんだ。ねぇ?今度の日曜ランチしませんか?ダメ?」
「えっ!?ランチ?いえ、ダ、ダメじゃないけど、いきなりのお誘いなんでびっくり!」
―――― そうね~ランチくらいなら。交流も必要ね。
と珉珠は思った。
「お昼以降でどうかしら?」」
「ホント!?やったー!!じゃぁ、今度の日曜十三時!駅前で!」
そんな二人の様子を見て、社員たちは、
「最近あの二人急接近だな?つき合ってるのかな?」
「何となくここんとこ、冷徹女の表情が優しくなった気がするかも」
「あんな笑わない、可愛げのない女のどこがいいんだろ!専務も物好きだね~」
「でも青木さん綺麗だよね?」
「綺麗でもあんな不愛想じゃ宝も持ち腐れだよ!」
「でもマジ綺麗なんだよな?一度は落としたいよな!」
「だよな!」
二人の噂をしながらも、珉珠の知的溢れた容姿は誰もが褒めた。
由弦は由弦で、自分はきっかけを作らないと、珉珠に会えないもどかしさに苦しんだ。
時折、社内で慶太と珉珠を見掛けると、いつも珉珠が隣にいる慶太を羨ましく思った。