漢江のほとりで待ってる


雅羅の動向が気になっていた弦一郎は、由弦の病室を警戒した。

そして一条にも気を配るように伝えていた。

その一条、色々考えぬいた結果、悩んだ揚げ句、慶太と珉珠にもこのことを知らせていた。

この弦一郎の警戒は正しかった。予感は的中した。

夕方ごろ、見舞客を装った一人の女性が病院を訪れた。

顔を隠すように深々と帽子を被った、異様な雰囲気を漂わせ、そして姿を消した。

面会時間も過ぎ、静まり返った病院。

姿を消したあの女性が、由弦の病室を訪れた。

そう、彼女は、ずっとトイレで身を潜め、この機会を待っていた。

ゆっくり、由弦に近づき、顔を睨み付け、「意識が回復しないのなら幸いだわ!もうそのまま死んでちょうだい!」と呟きながら、由弦のしている点滴パックに何やら注射器で混入させようとした、

その瞬間!

「何をしているんだ!」

弦一郎が入って来た。そして、珉珠、慶太と一条も慌てて入って来て、二人で雅羅を取り押さえた。

この騒ぎに、看護師達も急いで入って来た。

「放して!放しなさい!今止めを刺さないと全てが水の泡よ!」暴れる雅羅。

「もう止めないか、雅羅!いい加減にしなさい!!」

「何よ!あなた!だったら、あなたは私達に何をしてくれると言うの!」

「雅羅……私が慶太を見捨てるとでも思ったか?何でそう思ったんだ。私の慶太に対する態度か?違うだろ?」

「……」

「知っていたよ、あの日、君と初めて迎えた夜、君は私を泥酔させ、次の朝、いかにも私と事を済ませたように装った。私は裸でベッドに眠っていた。君も隣に居た。それから間もなく、慶太が出来たことを君から伝えられた。例え泥酔しても、君と関係を持ってないことを確信したよ。そしてその子が椎名との子とすぐに分かった」

「!!なら、あなた分かっていて三六年間も黙っていたと言うの!」

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