漢江のほとりで待ってる


「由弦をこんな目に遭わせろなんて、こんなこと私は望んでいない!いつも母上はそうだった。私の気持ちを聞くことはしない。哀しい時に泣かせてはくれない。そして事が起こる前にいつも先回りして問題を解決していた。私の目の前の障害物を、私がつまずかないように、母上は片付けてくれていた。良い意味で母上なりの愛情なのだろう。でも私は、そんなのこと望んではいなかった。このやり切れない気持ちを聞いて欲しかった、思いっきり泣かせてほしかった。心配しなくていいの!そんな言葉じゃない!悪いことをした時には、叱って欲しかった!父上、あなたにも!この胸のやり切れない思いを、誰かに聞いてほしかった!ぶつけたかった!自分を奮い立たせていたのは、長男だから!後継者だから!その言葉だけだった!」

「副社長……」珉珠は、泣きながら慶太を見つめる。

「由弦すまない……こんなひねくれた兄を、憧れていたなんて……お前が幼い頃、私が母に抱き締められているのを、お前は羨まし気に見ていた。私はその時だけ、優越感に浸っていたんだ。お前には欲しくても手に入らないものと分かっていたから。父に愛されているお前に対して、その時だけがお前に唯一自慢できることだったから。お前の方が何倍も淋しい思いをして生きて来たのに、それでも笑ってお前は。私は……愚かな兄を許してくれ……」

「慶太さん……」雅羅は慶太を抱き締め泣き崩れた。

「慶太……どんなことがあろうとも私は慶太を後継者にすると決めていた。これまで高柳を守ってくれていたのは、紛れもない慶太お前だから。もっとお前になぜ優しく接してやれなかったんだ。浅はかだった……すまない慶太」


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