漢江のほとりで待ってる
由弦の中に自分がいないと分かっていても、珉珠には譲れないものがあった。
彼の名前を呼び続けること。必ず、記憶が戻ると信じているから。
「由弦」
「由弦?」
「由弦~っ」
「由弦!」
「由弦……」
彼女がそう呼べば必ず、由弦も振り返り返事をした。
「何でオレをそう呼ぶの?」とも聞かず。
なぜなら、潜在意識の中で、それが当然のように記憶されていたから。
前にも増して、ほとんど毎日ほぼ一日中一緒にいる。
仕事ではなく、プライベートで。
前とは違って新鮮な感じがした。
眠っている彼ではなく起きている彼の髭をそってやったり、髪だけ洗ってもいい許可が出れば、洗ってやり、そんな些細なことで、珉珠はとても幸せを感じたりした。
「青木さん、いつもありがとう」
笑顔で由弦は言った。
「どういたしまして」
珉珠も同じように笑顔で返した。
でも時折切なくなる。
「もしもこのまま……」
挫けそうになり、一人になると、思わず泣いてしまうこともあった。