漢江のほとりで待ってる
慶太も、時間のある時は、必ず由弦の病室を訪れた。
その病室に、雅羅が見舞いに来た。
「母上!」慶太が驚いて言った。
由弦の前に立ち、一礼して、
「ご気分はいかが?由弦さん」
「……母上!?あなたがオレの?……あ~」
由弦は頭を抱えて苦しみ出した。
記憶が混濁している。
自分の本当の母親の顔が、ぼんやりとして、それが雅羅にも見えて来る。
「母上!?」もう一度雅羅に言った。
雅羅は困惑しながらも、由弦の記憶がそうさせるなら、自分は母になろうと決めた。
慶太と同じ血が流れている!
この子には、義母としても、愛情を一切向けなかった。
幼かった由弦に心から笑って接することをしなかった、いや、出来なかったから。
でも今なら、あの時とは違う向き合い方が出来るような気がした。
そして、罪を償わせて欲しかった。
「そうよ?あなたのお母さんよ」
そういうと、雅羅は由弦を抱きしめてやった。
由弦は一瞬びっくりしたものの、雅羅の腕に嘘は感じられず、でも優しさの中に、哀しみが入り混じった、そんな抱擁だった。
「母さん……」由弦は抱かれながら、涙をにじませた。
慶太も珉珠も、胸が詰まる思いがした。
「あ、珉珠さん、お願いがあるの」と思い出したように、雅羅が言った。
「何でしょう?」
「由弦さんの部屋を、掃除して頂きたいの。色々あって……私や家政婦が勝手に由弦さんのものを触るより、あなたにならいいかと思って」
「私も気になっていたんです、彼の部屋のこと。分かりました。明日にでも行ってきます」
「ありがとう、ごめんなさい」
色々あって……椎名が由弦の部屋を荒らしていたから、椎名自身が雅羅に片付けのお願いをしていた。
長い間部屋を留守にしていたから、埃も溜まっているだろうし、いい機会だと珉珠は思った。