漢江のほとりで待ってる

病院に着いて、由弦の病室を覗くと、何やら賑わっていた。

マーケティング部の仲間が見舞いに来てくれていた。

彼らは、社長である弦一郎から事情を聞かせれ、由弦が記憶を消失していることは知っていた。

少しでも、刺激になるように、何か思い出せるようにと、彼らも気にして足を運んでくれたのだった。

ドアが開くなり、珉珠の顔が見えると、

「あ!青木さん!」

由弦の表情は一段と明るくなった。

「何か~すっごく露骨なんですけど~!」

甲斐の一言に、

「そりゃ~仕方ないでしょ!二人好き合ってるんだから!」

と仲里。

「そ、そんなんじゃないって!」

慌てて否定する由弦。

珉珠は何も言わず笑って聞いていた。

「えっ!?そんなんじゃないって~、なんて遠慮することないですよ!」と仲里。

「そうですよ~!二人のことはもう分かってますから~!でも~私まだ諦めてませんから!」

甲斐はまだ由弦を思い続けていた。

「え~!!諦め悪~!」また仲里が甲斐を煽った。

「も~っ!!仲里さんの意地悪~!」と甲斐。

笑い声に包まれていた。

「兄貴の会社の人達が、オレのためにわざわざお見舞いに来てくれたんだ」

由弦が珉珠に向かって言った。

「そう?よかったわね~」

「あ!青木さんは知ってんのか。だって秘書だもんね。この人達を知らないわけないか」

珉珠は由弦の言うことに笑顔で返した。

「今日は江南課長は出張で来れなかったけど、明日はお見舞いに来るそうですよ?」

と仲里が言った。

「え~っ!!課長って人まで、直々にオレなんかのために来てくれるんだ?何かビックリなんだけど」

「有り難いわね?たくさんの方から大事にされて」と珉珠。

「そうだけど。オレとは何の接点もないのに、ただ兄貴の弟ってだけで、何か申し訳ない」

「そ、そんなこと!何を言ってるんですか!高柳専っ、さん……」

仲里は言葉を詰まらせた。

「そろそろ、私達帰ります。お邪魔しました、また来ますね?」

と慌てた仲里。

マーケティング部のみんなは、一礼をして病室をあとにした。

静まり返った部屋に、残された二人。

「着替えここに入れておくわね?」

「あ!ありがとう。ホントにいつもオレのために、ありがとう」

「いいえ、好きでやってるから気にしないで?あ、それと、由弦、これ~」

珉珠が由弦の部屋に置いてあった、領収書を見せようとした時、

―――― コン!コン!

扉を叩く音がして、誰かが入って来た。

二人の前に突然、一人の女性が現れた。

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