漢江のほとりで待ってる
「美桜!」
その女性が入って来るなり、由弦はその人の名前を呼んだ。
「ユヅ!久しぶり!大丈夫?」
「久しぶりって、この間も会ったばっかりだろ!やっと来てくれたね。あ!こちら、神崎美桜って言って、大学一年の時に知り合った、オレの彼女」
由弦は珉珠に紹介した。
「えっ!?」と美桜は一瞬驚いた。
「……っ!!」
珉珠もまた、由弦の言葉にびっくりした。
美桜は一年ほど前に別れた元カノで、美桜にしたら別れたのに「彼女」と紹介された、珉珠はいきなり目の前の女性を、「彼女」と紹介されたから、二人が驚くのも無理はなかった。
そしてその美桜は半年ほど前に結婚している。
なのになぜか由弦の前にいる。
しかし、由弦の記憶は五年前に戻っているから、由弦の中では美桜とまだ付き合っていることになっている。
だから、何の違和感もなく、以前通りに接している。
慌てて美桜は、
「あぁ~神崎美桜です」珉珠に一礼した。
「で、こちらが、兄貴の会社で兄貴の秘書をしてる、青木珉珠さん。オレが入院してからずっと、付き添ってくれてる。ホントに申し訳ないほどお世話になってる」
「青木珉珠といいます。どうぞ宜しくお願い致します」
キリっとした、磨き抜かれた一礼をした。
「青木珉珠さん。珉珠……珍しい名前ですね。今流行りのきらきらネームかしら」
美桜が言ったあと、珉珠は俯いたまま少し笑った。
美桜は、上から下まで舐めるように、珉珠を見た。
都会で働く洗練された女!しかも美人と来ている。
美桜は少し嫉妬した。
「秘書をされているんですね」と美桜。
「はい」
珉珠の返事一つさえ、余裕に感じられた。
「由弦?今日はもう帰るわね。じゃぁ、また明日」
「えっ!そうなの?」
珉珠は笑って由弦に告げると、美桜に一礼して出て行った。
扉の外で、珉珠は落ち込んだ。
―――― オレの彼女……私じゃない。
由弦の言葉が珉珠の胸に突き刺さる。
領収書を握りしめ、哀しみを堪えた。
挫けそうなくらい、とてもショックだった。
その場にいること自体が間違っているような気がして、二人の仲を見せつけられたような、恥をかいたような、そんな思いがいした。だけに早くこの場を立ち去りたかった。
それと、「パク・ジュウォン」のことを聞きそびれた。