漢江のほとりで待ってる
病室では、
「何か、気を使わせたかしら……ねぇ、ユヅ?」
「ん?」
「青木さんて人、とても綺麗ね?」
「うん、そうだね」
「ユヅはあの系の顔タイプでしょ!?」
「はぁ?何それ!」
「綺麗で大人だし、雰囲気も女の嫌らしさないし、けど、大人の色気!?はちゃんとあるし……」
「急にどうしたの?」
「ううん、何でもない」
「変なの!」
「あのね?しばらくの間、顔出していいかな?」
「は?変な言い方するよな?オレ達つき合ってんのに、ホント何だよ?やけに他人行儀だな」
「あ、うん……何も覚えてないの?事故のこととか、その前後のこととか……」
「うん。事故のこと、その後目が覚めるまで、全く記憶がない」
「そっか。じゃぁ~目が覚めたら青木さんがいたってことか、そのあともずっと」
「うん。でも不思議と青木さんが傍にいること、なんの違和感もなかった。むしろ、当たり前のような感じ!?」
「ふ~ん」
「あ!いや、別にその、変な意味でなくて……」
美桜の返事に、慌てて言い訳をする由弦。
「別に何も気にしてません!」
「そうですか!美桜は妬かないもんな」
「ん~、何か、そういうの、カッコ悪いでしょ?嫉妬に~そういう感情に振り回されたくない、自分のペース乱されたくない」
「知ってるよ!イチャイチャするのも苦手、常にクールでいたい。けど、弱い面もある。顔の綺麗さは青木さんにも劣ってないよ?だって美桜はミスキャンパスだしね!?」
「やだ!もう何年前の話よ!」
「何年て~今の話じゃん!」
「……!?あ、そうだね」
この時美桜は、本当に由弦が記憶を失くしていると確信した。
「ただ、何でアメリカじゃなく日本の病院なんだろうっていう違和感はある」
「な、夏休みの間は、ユヅ日本に帰ったりしてたでしょ?」
「うん。そんな時に事故るとはな」
二人の会話に、少し間が出来た。
そして、
「まだ、私のこと好き?」
「えっ!?な、何言ってんだよ急に」
「答えて?」
「はは、好きに決まってんだろ!」
「ほんと?」
「……うん」
「そっか」
以前の由弦なら、「好きだ!」と即答してくれたはず。
美桜は、由弦の返事に迷いがあるのを感じた。
そして別れたあの日からの時間の流れも、五年分受けた気がした。