漢江のほとりで待ってる
場所は会社へ。
社内では、新しい専務が来ると騒いでいた。
「噂では副社長の弟さんらしいわよ~アメリカの名門大学卒業だって!」
「え!? 社長の息子!?」
「えー!! そうなんだ? 副社長みたいに背が高くて男前かしら~」
「聞くところによると、副社長に負けてないらしいわよ? むしろ副社長より男前とか!」
「やっだぁ~どうしよう~迷っちゃう! 私、副社長狙ってたんだけどな~」
「ダメよ! 副社長にはガッチリと冷徹女がガードしてるから手も出せないわよ!」
「あぁ~、秘書の青木さんね? 彼女も副社長狙ってるのかしら~?」
「何だかんだ言ってもあの二人お似合いだし?」
「えっ!? つき合ってるの?」
「知らな~い」
女性社員達が、新しい専務が来るのを心待ちにしつつ騒いでいた。
「もし兄弟ってのが本当なら、派閥争いになるかも~!! 副社長派!? 専務派!? どっちにつけばいいんだろう!!」
一人の男性社員が頭を抱えた。彼の予想は無きにしも非ず、特殊な過去を持ち合わせた兄弟の運命が、ゆっくりと動き出していた。
「何でそうなるのよ!」と女性社員が少し小ばかにして、男性社員に向かって言った。
「だって、相続争いも否定できないでしょ? 何でこの時期にこのタイミングで弟が会社に来るのさ?」
自分のこれからの立場に、暗雲立ち込めるような危機感を覚えた男性社員は、不安を隠せないと言った泣きそうな顔をして聞き返した。
「何よ? 弟君が社長の座を奪いに戻って来たってこと? そうだとしても、あんたはどっちにつこうが心配しなくても大丈夫よ! エリートコース外れてるから! 見た目なんてもっと外れてるし!!」
女性社員は彼を見下し、周りいた社員達を煽るように笑った。
「何だよ~それ~!! 酷いな!」と肩を落とす男性社員。
会社では高柳グループの会長が退く噂が広まっていて、それで今の社長が会長に任命され、副社長が社長にという流れ。
現状、社長のすべきことを、副社長の高柳慶太が全面的に担っていて。社長も息子である慶太を信頼し任せていた。当然、副社長の慶太が後継者になるものと、誰もが思っていた。
そこへ弟がやって来たとなると……色んな情報や噂が社内で交錯していた。