漢江のほとりで待ってる
午後、B.A.B休憩室では。
由弦が一人カフェオレを飲んでいた。
そこへの新人、宇海匠とコピーライターの田辺美紀がやって来た。
「お疲れ様です!」と二人。
「あぁ~お疲れ様です」笑顔で返した由弦。
「高柳さん!経済紙見ましたよ~あのAwakenの社長とMecha-Kakuseiブランドを立ち上げたそうですね?あの伝説の創立者の五人のメンバーのうちの一人だなんて~!!」
宇海は目を輝かせて言った。
珉珠は副社長に頼まれ、由弦を探しに休憩室に入ろうとして、その時、由弦の声に足が止まり、入り口でその話を偶然耳にした。
「私もそれ聞いてびっくりした~でも、この企画が終わってしまったら、高柳さん本社に行っちゃうんですよね?」
と田辺。
「そうなんだ?もっと一緒に仕事したいっスよ!でも~そんな方と今回一緒に仕事が出来るなんて、マジ奇蹟っス!」
「ほんと!ほんと!」
「えーっ!!そうなんですかぁ!?」
そこへ突然話に飛び込んで来た甲斐。
「そうよ!日本では物凄く有名なブランドなんだから~!今や海外でも名を馳せる!今度は上海進出よ!」
「そのブランドは知ってましたけどぉ~まさか専務がそんなスゴイ人とは知りませんでした~、私の目に狂いはなかった!!」
甲斐は由弦に上目遣いをしながら近付いた。
「そんな凄い話じゃないから」
由弦は終始苦笑いしていた。
「でも何で辞めたんスか!?」
「はは。人生色々あるからさ?それに人生一度きり!誰のためでもない自分の人生だから後悔ないように。自分の選んだ道は誰のせいにも出来ないから!」
「おぉ~!何か重みあるっス!あ!高柳先輩、よかったらID交換しませんか?おしえてくださいよ!」
「あ!私も!」
「あ~!愛梨にもおしえてください~!」
気軽に入って行けない珉珠。甲斐をこの時は少し羨ましく思った。
そのまま引き返し、社長室前に置いてあるブックラックに目が行き、何気に手を伸ばし経済誌を取り、「若き天才クリエイター……CGデザイン界の偉才!……」由弦の載っている記事に目を通した。
「何だか私、凄い人から告白されてたみたい……」
今でも会うのに一苦労しているのに、今以上に由弦が遠ざかって行くような気がした珉珠。
「彼が会いに来てくれてたから、難なく会えてたんだ……」そう実感した。
その頃会社では「副社長が来られている!」と騒いでいた。
課長江南もいそいそと副社長を探し回っていた。
社長室に慶太はいた。そしてB.A.Bの社長と談笑し、珉珠と由弦を待っていた。